海外ボランティアとなる
1.銀行カレッジ
赴任直後の難関は、どの科目をどのように教えたらよいか?学生のレベル、他の教師のレベル、指導内容、指導方法、カルキュラム、指導用具(含む教科書、コンピューター)の現状が不明なため実際の授業で何をどうやったらよいかが現実的に最大の問題であった。
――>学長との話し合いで先方のニーズを聞き出し(今学期から新カリキュラムで起業論をスタートすることになったが、その担当教師がいない、いても経験が無いのでこれを担当してくれないかとの依頼があり)起業論の授業を担当することに決定しスタート。
第一回目の授業は、学生の興味を引き付けるために、プロジェクターで起業家養成用の教育ソフトの映像を写し、起業とは何かをやさしく解説することでクラスを開始した。
従来の授業と大きく異なるやり方であったためか、学生、教師、学長などの興味を引き付けることが出来た。
カレッジの設備はレベルが低く、教室、図書館、コンピュータールーム等、外見もよくないが中味はもっと低レベルというのが実態。図書館にある本の内容、冊数ともに限られており、十分というには程遠い。
また、カレッジの学生の90%はウズベク語での授業を受けている(残りの10%がロシア語での授業を受けている学生)のにも関わらず、ウズベク語のテキストは殆ど開発されていない。あっても内容が不十分。
カレッジでの授業に教科書を使っていないことに驚いた。
学生は、先生の講義を聞いてメモする(教師は講義ノートをベースに講義)だけで活発な質問、議論は殆どない。いわゆる、つまらない授業の典型。コンピューターの台数はかなりあるものの、O/Sがウィンドーズ95と古く、新しい教育ソフトやインターネットには不向きなもので実用上大いに問題があった。又インターネットは、通信回線が劣悪且つ高価で殆ど使われていない。(これはほかの大学でもほぼ同じ状況)しかし当カレッジにはコンピューターが数10台あると学長以下は誇らしげに語るなど、ハード(外見、形式)中心でソフト(中身)は問わないという当国の問題点が浮き彫りになっているように思われた。
形式は整えるが中味は問わないという例はほかにも多い。
例えば、カリキュラムもそうで、年一回、カリキュラムを作成し提出(高等教育省の認可を受ける)する際には細かい規定に沿って準備作成されるが、実際の授業は、これとかけ離れていてもまったく問題は無いようである。誰もチェックしないしチェックするシステムは無い。
銀行カレッジは創立が1996年と比較的最近で、学長も若手を抜擢したこともあり(現学長のザイヌデイン氏は当時28歳)積極的に当カレッジを運営、育成してきた。その甲斐あって銀行カレッジは学生数も増え、卒業生の就職先である商業銀行との関係も良好なものとなっている。
学長の経営手腕が優れていたためであろう。本年9月、カレッジは新しい敷地の新校舎に移転し更に多くの学生を受け入れられる器が完成した。カレッジは高等教育省、市役所などの監督官庁の受けもよく順調に歩んでいるように見える。
確かに、校舎、設備などのハードウェアは整ってきているが、カレッジにとり最も重要である、教育の中身(ソフト)に関してはまだまだといわざるを得ない。カリキュラムの表面だけを見れば内容はかなり充実しているように見えるが、実際の授業内容はおそらく相当の低レベルではないかと想像される。(私が学生たちと話していて受ける印象から類推)ここにも、形式的には、そこそこ整っているが実態はまったくだめというウズベキスタンで一般に見受けられる問題がある。
おそらくソ連時代からの名残りである仕事に対する評価方法、判断基準にその原因があるのであろうか? 事実、授業の中身といったソフト面については学長以下あまり関心を持っておらず建物、設備、コンピューター、教員数といった点のみが関心事といっても良いほどである。このような考え方を抜本的に直していかない限り、教育機関の改善、進歩は難しいと思われる。国の教育政策、基本理念にかかわる問題であろう。
"外見(ハード)優先、中味(ソフト)軽視"は、教育分野だけではなく、そのほかの分野でもほぼ同様であろうと思われる。
例えば、銀行業界にして然り、旅行業界、航空業界等のサービス産業(あるいは製造業でも同様か?)にしても似たり寄ったりではないか。形式ではなく中身で評価するやり方に変えない限り真の発展は望めないというのは言いすぎだろうか。銀行カレッジの運営が当国の基準に照らせば成功しているのにも拘わらず、外国人の私から見れば大いに問題ありと思うのはこうした評価、価値判断基準の相違によるものと思わざるを得ない。
授業内容の改善に対する教師の考え方について
殆どの教師は授業内容の改善に興味を示さない。(例外は、海外留学の経験を持つ少数の若手教師)その理由としては、努力しても評価されない(やってもやらなくても同じような評価)又、給与が極めて低く教育に打ち込むインセンテイブも時間も無いことが挙げられる。確かに、教師の給与が低く他にアルバイトをしない限り生活できないという事情はあるようだ。
しかし、これは単なる言い訳に過ぎないのかもしれないとも感じている。たとえ、給与が引き上げられても教育に対する熱心さ、情熱、価値観はそう簡単に変わるとは思われない。教育が当国の次世代にとりどんなに重要なことか、上から下まですべてのレベルで真に認識されていないことが一番大きな問題ではないだろうか。ウズベキスタンにとってきわめて重要な問題といわざるを得ない。
2.Kellajack Illma(4年制商科大学)
当大学は4年生の商科大学で授業は英語で行われている。授業料も高く金持ちの子弟が学んでいる大学のようである。私は、銀行カレッジの学長の依頼もあり(当大学の学長は銀行カレッジ学長の恩師)ここで週4時間のクラスを受け持つことになり一学期間(約半年)学生を教えた。半年間の授業を終えて、次学期の授業を依頼されたが以下の理由でお断りした。
- 学校当局の教育に対するやる気の欠如
- 事務局のいい加減さ
- 学生の態度の悪さ(一部の学生ではあるが)
- ボランティアを安上がりなマンパワーと捉えている先方のスタンス
ここでも、この国でよく見られる典型的パターンである、「格好はいいが中身は空っぽ」ではないかと思われる程の商科大学であり、学校当局はそれを改善していこうという気持ちを余り持ち合わせていないと判断し、ここで教えることを止めた。
やりがいのない場所でボランティア活動は続かないと云う例の典型であった。当大学のカリキュラムは、米国の大学からの支援によって造られており、短期ではあるが米国人アドバイザーも来ている。学校の評議会も、タシケントに進出している外資系企業の社長などをメンバーにしている。
授業は英語で行われるため学生はTOEFLで一定以上の点数を取っていることが入学条件など形式的には、実際には英語でビジネス経営など的確に教えられる教師陣は殆どいないし、学生の英語のレベルも今ひとつで、私のクラスでは「起業論」を教えているのか英語の授業をやっているのかわからないようなことも多かった。
この大学に似たような経済、商科系教育機関は他にもあるように見受けられた。当大学は、授業が英語で行われていることもあり卒業生は当地の外資系企業への就職率が高い由であるが、確かに、実務英語を教える語学学校としての意味はあるようだ。
3.金融大学及び大学院(Financial Institute)
当大学は、タシケント国立大学から独立する形で設立された大学で、初代学長は、カリモフ大統領の恩師とのこと。大学、大学院(修士、博士コース)、又その傘下に銀行カレッジを抱えている教育機関。従って、教師陣も銀行カレッジと大学を兼任しているケースが多い。
初年度、大学で講師を務める海外留学経験を持つ若手教師たちに依頼され、彼らのクラスで講義を始めた。(どのクラスも学生は熱心でやっていて楽しい授業であった。クラスのサイズは約50名)更に、学部長の依頼で大学院での講義も行った。但しこの大学院のクラスは、外国人の教師が来たからとりあえず授業をやってもらおうという感じで、時間のあいている学生を集めてクラスに出席させていたようで、何かしら先方の誠意、熱意が感じられず一年間で終了させた。
今から想像するに、学部長が何か新しいことをやっているということを当局などに示すために依頼してきたのではと思われる。ここにも外見だけを取り繕うウズベキスタンのやり方が垣間見たように思える。
2年目は、若手教師たちの勧めもあり、新たに英語で講義するクラスを設け、大学生、大学院生を問わず学生の応募を行った。(比較金融論のコース)当初の授業参加希望者は80名。
選抜試験を行い結果、50名を2クラスに分けコースをスタート。授業は、私の作成した資料およびテキストのコピーを事前に配布し教科書の代わりとした。又、それを読んだ上で授業を受けるよう指導。授業中は、一方的な講義というより、質疑応答、デイスカッション、ケーススタデイー演習などいわゆる、インターアクテイブなクラス内容を目指した。
授業開始時間に遅刻しないこと、事前配布の資料を必ず読んでくること、授業中の私語は控えることなど当然のことではあるが当国ではきちっと守られていないことを守るよう指導した。
一年間を終えて、修了証書を交付した学生は24人。残りは途中で脱落した。最後まで残った学生は、自らの意思で積極的に新しい知識を得ようという前向きのスタンスを持つ私にとっては有難い学生であった。
これらの学生たちと授業を通じてあるいは、自宅へ招いてのパーテイーを通じ、ウズベキスタンのこと、人々の暮らしや考え方などいろいろなことを話し合えたことはまことに幸運であった。彼らもそう思っていたようだ。
大学当局もこのクラスが面白いということを学生から聞いたのか、今後も是非継続して欲しいとの依頼をしてきている。(継続して行う方向でJICAシニアボランティアの方にご依頼中)
4.プレジデンシャルアカデミー経営大学院
当経営大学院は、大統領直轄の国家社会建設アカデミーの一部門として2年前に設立された。学長が銀行カレッジ学長の恩師である所から講師として教える事を依頼された。建物、設備とも非常に立派なところではあるが、肝心の授業内容はまだまだというのが実情であろうか。
アメリカの経営大学院の支援、指導を受けてビジネススクールとしてのカリキュラムは作り上げたものの、各科目を教える教師陣がいないというのが実態。(専任講師は3名程度で大多数は、非常勤で外部から招聘している)学生の平均年齢は34歳で現役のビジネスパーソン、官庁のマネジャークラスが中心で中には会社社長も含まれている。
授業料が高いため殆どが企業および官庁からの派遣学生となっている。大学院は全日制が1年4ヶ月のコースで卒業者にはMBAのデイプロマが授与される。全日制のほか、パートタイムコースと呼ばれるコースもある。
一学年の学生数は、全日制で約25名。
初年度はここで、財務分析基礎コース(必須科目)とコーポレートファイナンス(専門科目)を担当。授業は英語で行い通訳をつけた。(ウズベク語)学生のレベルはまちまちで中には余りやる気の無いものもいたようだ。
学校当局も、形式は気にするが内容には余り関心を示さず、上から与えられたキャリキュラムをどう形をつけ消化していくかという点に汲々としていたように見受けられた。
とにかく講師を手当てし時間割を埋めることに追われて内容まではとても手が回らないというのが実態ではないかと思われた。
学生も、いわば選抜されてきた者達でここを卒業すれば職場でワンランク地位が上がるとも言われており(成績の評価に問題があるのか全員卒業し落第はない)入学することに意義があり勉強することには熱心でいないものも一部混じっている。
ここでの授業も出来るだけ、質疑応答、インターアクションを活発にするやり方を持ち込んだがそれなりに学生の反応は良かったようだ。(想像するに、当地の先生方は講義を一方的にするのみで余り質疑応答などはやらないようだ。
その理由を考えてみるに恐らく、教師の実務経験不足であろう。私企業の歴史が浅い国だけにやむをえない事情ではあるが。企業経営に関してはその理論に関して書物で勉強してもそこには限界があり、実際にビジネス経験者である学生の実務的質問に答えられないためではないかと考えられる。
学生たちの私の授業に対する感想に、「先生はどんな質問にでも答えてくれるというのがほかの先生と違う」というのがあり、そうなのかと思った次第。
今ウズベキスタンの企業経営教育で必要としているのは、実際に経験に裏づけされた実務的企業経営論なのであろう。そのためには、教師陣の再教育を含む所謂 "Faculty Development" が喫緊の課題なのではないだろうか。
5.女性起業家協会(BWA)
タシケント近郊の農村地域で新しく企業を起こそうとしている女性起業家の研修セミナー講師を担当し5日間ではあるが20数名の女性起業家にたいし起業論の講義を行った。彼女らの計画している企業は農産品、酪製品、手作りの繊維製品、家具、などを作り販売するという小規模ながら極めて地に付いた商売が殆どで、参加者全員真剣に研修を受けていた。彼女達のセミナー内容の理解度は大学院生に比べても驚くほど高かった。セミナー終了後、彼女たちを自宅に招いていろいろな話を聞くことが出来、有意義な時間をすごすことが出来た。その後、彼女達が地元に戻ってスタートしたプロジェクトのサイトを訪問見学する機会にも恵まれた。私としても大変有難い経験であった。
6.Junior Achievement Program
小学生から大学生を中心とする若い人たちに、会社とは何か、企業活動とは何かを教育するジュニアアチーブメントプログラムのセミナーに講師として参加。
ジュニアアチーブメントはアメリカで開発されたプログラムであるが、現在では日本を始めとする世界各国で広まっている、企業活動の関する教育プログラム。ウズベキスタンのような移行経済国ではもっとも必要とされる教育プログラムといえる。"ジュニアアチーブメント(ウズベキスタン)"はNPOとしてこの国でささやかながら活動している。セミナーは、小、中、高校の先生方(地方の学校)を対象に行った。
これらの先生にとり、市場経済とは何か、企業活動とは何かを学校で具体的に教えることはかなり難しいテーマで、セミナーに対するニーズはきわめて高いとのこと。確かに、タシケントと異なり、地方では、教材となる資料、情報等きわめて少なくジュニアアチーブメントの提供する資料が唯一といってもよいほど。
先生方の態度も熱心で非常に好感が持てたセミナーだった。又、地方には、やはりいろいろな事情があるのだなと感じた。
7.タジキスタン商業銀行員向けセミナー
同国の銀行員対象に2日間のセミナーを開催、講師として参加。起業論をレクチャー詳細は別途提出のレポートご参照
8.日本センター
同センタービジネススクールで2日間(10時間)金融論のレクチャーを担当 偶々来ウ中の森前首相一行がこの授業を参観した。
9.タシケント国立経済大学、世界経済外交大学
OCV 隊員の依頼により国際学部の学生対象に、日本語あるいは英語で経済関連テーマのレクチャーを行った。(経済外交大は週1回のクラス、経済大は、依頼に基づき適宜)
10.日本語での経済講座
日本語で経済関係トピックスの通訳が出来るような人材を教育する目的で本講座を9月より開始。当初の参加人員は10名。現在は4名が継続中。
11.日本人抑留者記録ビデオの日本語吹き替え
タシケント在住のジャリルスルタノフ氏の依頼で同氏作成の抑留日本兵の記録ビデオ日本語吹き替え作業に参加。
12.ウズベキスタン金融セクター改革に関するJICAミッション
2002年3月、同ミッションに参加し、主要金融関連省庁、中央銀行、商業銀行などを訪問しウズベキスタンの現状、金融界の主要人材を知る大変有難い経験となった。
2年間の活動、当地での生活を振り返って
この2年間充実した期間を過ごすことが出来ました。
正規の配属先に加えいろいろな先でも活動できたことを含め、私自身にとりプラス面の大きい当地滞在だと感じています。もちろん問題も多々ありました。そのひとつは、自分の活動がどのくらいこの国にとって役立っているのだろうかという点です。
学生に新しい知識などを教えるという面では、それなりの手ごたえもありそこそこ満足できるかと思っています。同時に、私の活動がこの国の教育機関とその仕組みに対してどれほどのインパクトとなったのかを考えると、道はなお遠いといわざるを得ません。
この国の教育機関の実態(教師達の抱いている無力感、或いは、やる気の無さ、規律の欠如、入学、卒業成績評価に関する不透明さ、腐敗等々)をある程度垣間見るにつれ、現場の努力だけではとても解決できない根本的問題が少なくないとの印象を拭えなくなりました。
特に、形式主義から実質主義に転換して、教育の中身を改善していかないことには今後の先行きが見えてこないのではないかと感じています。中心の考え方に変えていく必要があると思います。(この点は、高等教育省の高官も認識しているようではありますが)そうしないと、国際機関からの教育関連支援活動もその効果が限定されてしまうと考えます。
ただ、こうした問題点は、皆に正しく認識されており条件さえ整えれば問題解決は可能だと思われ点が救いであるとも感じています。個的には、2年間の単身生活ではありましたが、周囲の方々のおかげで楽しく充実した毎日を送ることが出来ました。本当に有難うございました。
シニアボランティア 加藤倭朗 ウズベキスタン銀行システム